会員数175万人の『ラブコスメ』を企画編集。2003年に日本ではじめて『セクシャルヘルスケア』を提唱し、恋愛やカラダのことで友人にも聞けない性に関する悩み解決の専門家として発信。SNSにて『夜の保健室』を展開し、小説や漫画など書籍も多数。記事・動画・アプリで「愛し合うこと応援する」ために幅広く活動している。
仕事先で出会った彼は、正直見た目がタイプだった。
一目で「良い」と思った。彼と出会ったのは、もう8年ほど前になる。
連絡先を交換し、どちらからともなく誘い合って、何度か飲みに行く。
真逆の趣味を持つ彼との会話は、いつも新鮮で面白い。
お互いに彼氏・彼女の肩書きがつくまで、私たちにそこまで時間は必要なかった。
決してドラマチックではないけれど、自然な流れが心地良い。
1人暮らしだった彼の家に頻繁に通うようになり、半年も経たずに同棲生活が始まった。
私は夜型人間だけど、彼は毎日早起きだ。
そんな彼に合わせるのも、苦痛に感じることはなかった。
彼に合わせて起きて、朝食の支度をし、「いってらっしゃい」のキスで見送る。
家で仕事と家事をして、彼の帰りを待つ。好きな人のために尽くすのは、案外悪くないものだ。
私たちは、こうなるべくしてなったんだろう。ずっと、そう思っていた。
付き合い始めた頃から、会えば毎日のように体を交わしていた。
夜できなければ朝したし、朝も夜もすることだってあった。
私たちは、相性も良かった。肌に触れているだけで気持ちよくて、心が満たされていく気がする。
求め合うのが当たり前で、
「愛し合う」ってこういうことだと思っていた。
一緒に出かける時は手を繋いで、毎日キスをして、抱き合って眠る。
私は満たされていたし、愛されていると感じていた。きっと、彼もそうだったんだろう。
ー5年前の冬、私たちは結婚した。
両家に挨拶をして、指輪を選び、籍を入れる。
それからも結婚式と引越しとで慌ただしく、毎日は驚くほどあっという間に過ぎていった。
「新婚」という甘い言葉に、どこか酔っていたのかもしれないけれど…
私たちは、幸せだった。確かにあの時は、幸せだったんだ。
「そういえば、最近してないな」
そう気付いたのは、引越しが落ち着いた時だった。
同じ時期に結婚した後輩の「家族が増えます!」という投稿を見た瞬間、「おめでとう」と思う前に、
「羨ましい」と思ったからだ。
私は子供は欲しくない。だから、決して子供ができたことに、ではない。
求め合い、触れ合って、愛し合う…その行為が夫婦の間にあることが、ただただ羨ましかった。
郊外への引越しで、夫の朝はさらに早くなった。
当然、寝る時間も早くなる。
でも、私にも仕事があるし、夜遅くなることだって少なくない。
恋人時代は喜んで彼に合わせていたものだけど、毎日、一生、相手に合わせ続けられなんかしない。
少なくとも、私にはできなかった。
毎朝の見送りのキスも、同時にベッドに入ることも、気付いた頃にはなくなっていた。最後に手を繋いだのがいつのことだったかすら、もう思い出せない。
ねぇ、もう何ヶ月も触れてすらいないって、分かってる?
「セックスレス」の定義を調べたのは、この頃だった。
しなくなってから既に数ヶ月経っていた私たちに、この言葉から逃げられる術はない。
漫画『あなたがしてくれなくても』に出会ったのも、まさにこの頃だった。
当時出ていたコミックス最新刊まで、無心で一気に読んだ。
レスに悩んでいるのは、私だけじゃないんだ。
でも私は、この問題にも夫にも、きちんと向き合っていなかったのかもしれない。
改めて、頑張ってみても良いんじゃないか?
健気に努力する主人公の姿を見て、素直にそう思った。
そう思ったはずだったのに…。
4月から、この漫画がドラマ化されると聞いて、正直私は怯えている。
実写化されたこの世界、そして私自身の現実を、平常心で受け止められる自信がない。
それでも、今の私はきっと、この作品を観なくちゃいけない。
観て、受け止めなくちゃいけないんだ。