会員数175万人の『ラブコスメ』を企画編集。2003年に日本ではじめて『セクシャルヘルスケア』を提唱し、恋愛やカラダのことで友人にも聞けない性に関する悩み解決の専門家として発信。SNSにて『夜の保健室』を展開し、小説や漫画など書籍も多数。記事・動画・アプリで「愛し合うこと応援する」ために幅広く活動している。
人が「男女」でいるためには、お互いにそれなりの努力が必要だと思う。
身だしなみもそうだし、ちょっとした言動にも気を配る。
相手に好かれたい、好きでいて欲しい…そう思うなら当然のことだし、苦にもならない。
でも、夫婦は日常生活だ。
相手が日常になり、自然と気を使わなくなっていくことで、夫婦に、そして家族になるんだろう。
話しかけなければ会話がなかったり、ふとした瞬間に不機嫌そうな顔を見せたり。
帰ってくるなり大きなため息をつくのだって、きっと私が夫の日常になったからだ。
これは、素の自分を見せてくれているってこと。
つまり、自然体でいられるくらい、心を許してるんだよね。
きっと、私が神経質で、気にし過ぎてるだけだから。
私たちが「男女」だったときに見えなかった彼の素顔は、決して私にとって気持ちいいものではなかった。
それでも繰り返し繰り返し、自分を納得させる。
私たち夫婦の「日常」を守るために。
私たち夫婦の「日常」に、問題はない。ただ、ずっとセックスしていないだけ。
私は本気でそう思っていた。
…いや、そう思っていたかった。
そんなある夜、ベッドに入ると、突然夫が私の腕を引っ張り、抱きしめようとした。
当然、そういうことだろうと思った。
「明日も朝早いんでしょ」
私の口から溢れたのは、なぜか拒絶の言葉だった。
部屋はもう真っ暗で、夫の顔色は伺えない。取り繕うように、寝息を立てるフリをした。
していないことに、不安があったのに。
している夫婦が、羨ましかったはずなのに。
長い間触れていなかった手も、久しぶりに近付いたときの空気も、なんだか知らない人のようだった。
欲しいと思っていた服を着てみたら全然似合わなくて、急に欲しくなくなったときみたいな、奇妙な違和感。
引っ越しに合わせて買い替えたダブルベッドはもう、ただ眠るためだけの場所になっていた。
体の距離と、心の距離。どっちが先に空いたんだろう。
本当は、自分でも分かってる。だって、あの夜本当に痛かったのは、急に掴まれた腕じゃなかったから。
私たちが「日常」になってから、大事にされている実感はなくなっていた。
何となく雑に扱われ、悪意なく蔑ろにされる日々。
私はもう彼の「女」じゃないんだと、ことあるごとに思う。
「家族」という日常になった私たちは、もう「男女」にはなれないのかもしれない。
それなら私は、何のために居るんだろう。
夫にとって私は、何なのだろう。
守りたかったはずの日常の中で、気付いたらいつの間にか、心も体もひとりぼっちになっていた。
だから、突然ぶつけられた彼の「男」に、戸惑うしかなかった。
私は、ただセックスがしたい訳じゃない。
「愛されている」「愛している」と、実感するためにしたい。
「愛し合っている」と思えないセックスなんて、したくない。
ただ欲望を吐き出すだけなら、ひとりでする方がずっと良い。あなたがしてくれなくても、別に良い。
スッと、気持ちが冷めた気がした。
その瞬間どこかホッとしたことには、気付かなかったフリをして。
電子書籍サイトから、漫画『あなたがしてくれなくても』の新刊通知が来た。ただ眠るためだけの存在になったベッドの上で、改めて既刊から読み返す。
『愛する夫としたいと、懸命に奮闘する主人公みち。』
『妻からのプレッシャーに耐えられず、逃げたくなる陽一。』
『妻への献身に疲れ、孤独とやるせなさに悩む誠。』
『仕事で心に余裕がなく、夫に甘えてしまう楓。』
誰かひとりに特別共感した訳じゃないのに、ひたすら共感した。全員の気持ちに、思い当たる節がある。
「したい」想いと「したくない」気持ち、その両方が自分の中にあるからだろう。
以前読んだときとは違う感情に襲われて、めちゃくちゃになりそうだった。少しの間に、私は変わってしまったのかもしれない。
それでも、この「禁断の関係」は、流石に漫画の世界の話だと思っていた。本当に、ただのフィクションだと思っていたんだ…。
いよいよ4月から、この物語が漫画の世界から飛び出してくる。
私は、このドラマを夫と一緒に観ることができない。
作品に対しての期待と、観た自分に対しての不安。震える手で、録画予約のボタンを押した。
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