会員数175万人の『ラブコスメ』を企画編集。2003年に日本ではじめて『セクシャルヘルスケア』を提唱し、恋愛やカラダのことで友人にも聞けない性に関する悩み解決の専門家として発信。SNSにて『夜の保健室』を展開し、小説や漫画など書籍も多数。記事・動画・アプリで「愛し合うこと応援する」ために幅広く活動している。
女には、どうして穴が開いているんだろう。
決して埋まることのない、埋めてもらうことのできない穴から、何かが抜け落ちていくような感覚に陥りそうになる。
愛されている実感も、女としての自信も、満たされない性欲も…かつての私が持っていた、全てが。
結婚したら、配偶者としかセックスできない。
このままじゃ、この先ずっとセックスできないんだ。
「女」として大切にされていると思えないと、ずっと嘆いてきた。まるで夫だけが一方的に「家族」になったかのように、ひたすら非を擦りつけて。
でも本当は、私が「女」である努力を本当にしてきたと、堂々と言えない自分に目を背けたかっただけなのかもしれない。
私はもう一度、幸せなセックスがしたい。
心と身体を、愛で満たしたい。
大切な人の肌の温もりに浸りたい。
ロクな手入れもされていない30代の体からは、性の匂いが消えていた。
私は、女として終わりたくない。愛されているという、実感が欲しい。
夫に変わって欲しいなら、まずは自分が変わるんだ。
結婚するまで、彼氏が途切れたことが殆どなかった。特段可愛いとか美人だとかじゃないからこそ、それなりに努力していたと思う。
だから私には、やるべきことが分かる。男性が欲しがるものを、知っている。
かつて愛用していた、女性向けコスメのサイトを開いた。ログインパスワードすら覚えていないことには苦笑したけれど、久しぶりに気分が上がる。
肌にハリと自信をくれる、ボディジェル。
触りたくなるような髪を目指せる、ヘアオイル。
唇を艶と香りで包んでくれる、キス専用美容液。
そして…「ここぞ」という時の戦友だった、ベッド用香水。
夫が私を「女」として見ていたときの相棒たちを、次から次へとカートに入れた。決して安くない買い物だけど、だからこそ決意も新たになる。
絶対に、夫をもう一度振り向かせたい。そして、「女」としての自信を取り戻したい。愛されている実感を、改めて手に入れるんだ。
荒れ放題だった土地も、手をかければ実を結ぶ。
しっとりと触り心地の良い肌、サラサラで艶のある髪、ぷるんと潤った唇…。当然100%ではないけれど、着実に良くなっていると思える。お金をかけた分、もっと努力したくなる。
自分を磨けば磨くほど、「女」としての自信を取り戻しているのが分かる。
自分を労わることは、自分を愛することだから。
自分で手に入れた自信ほど、頼れるものはないはずだから。
そんな自信に後押しされるかのように、私は夫との時間を増やそうとした。できる限り夫と過ごし、積極的に明るく声をかける。一緒に居ることを、少しでも楽しいと思ってもらえるように。
「あのさ…」
そんなある日、夫から低い声が漏れる。夫婦だから分かる、これは機嫌が良くないときの声だ。
「最近お風呂の時間長くない?遅い時間の音、気になるんだけど。」
怖いくらい、何も言葉が出てこなかった。
私はあなたに、もう一度女として見て欲しいの。だから、綺麗になりたくて…そのために頑張ってたんだよ。
私、変わったって、分からないかな?あなたに見て欲しくて、努力してたのに?
吹き出した感情は、飲み過ぎたアルコールのように、喉の奥で熱を持つだけだ。
「ごめん…気を付けるね。」
きっと私の声は、物凄く震えていたと思う。それでも夫は気にも留めぬ素振りで、リビングを後にした。
夫は私を、「女として見ていなかった」のではなかった。
私自身のことを、見ていなかったんだ。
あのとき、私が拒否してしまったから?それとも、もっとずっと前から?
涙が出る代わりに、心が折れる音がした。
「なんか最近、綺麗になったんじゃない?」
趣味仲間からの一言で、私の頑張りは少しだけ報われた。
「あはは、ありがと!流石に放置し過ぎでヤバいかなって思ってさ…」
「変わったよ〜!あっ、もしかして推しでもできた!?」
彼女は今、某アイドルグループにハマっている。推しができてからの彼女は、「推しに恥ずかしくない自分になる!」と自分磨きに余念がないからか、なんだかキラキラして見えた。
「違う違う!漫画とかアニメは好きだけど、キャラ推し派じゃないし!」
「でも、女子って好きな人ができると綺麗になるよね。恋して綺麗になるの、良いことだと思うよ?」
「隙あらば布教するのやめなって!てかそれって恋なの?笑」
笑いながら、ふと『あなたがしてくれなくても』のことが頭をよぎる。
女性は恋をすると、綺麗になる…。それは、「夫に対して」じゃなくても?
いや、そもそも「私は夫に恋していない」ということなの?
「最近綺麗になったね」って、言って欲しかったな。友達からじゃなくて、あなたに言って欲しかったんだよ。
いよいよ始まったドラマ『あなたがしてくれなくても』は、原作漫画でも痛いほどリアルな世界を実写で私に叩きつけた。3次元の、そしてこのドラマのキャスト・製作陣の演出は、当事者にはあまりにも痛烈だ。
漫画版がどこまで再現されてしまうのか、ドラマオリジナルの演出はどうなるのか…
来週も私はこの作品に、ただ手に汗を握るしかできないんだろう。
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会員数175万人の『ラブコスメ』を企画編集。2003年に日本ではじめて『セクシャルヘルスケア』を提唱し、恋愛やカラダのことで友人にも聞けない性に関する悩み解決の専門家として発信。SNSにて『夜の保健室』を展開し、小説や漫画など書籍も多数。記事・動画・アプリで「愛し合うこと応援する」ために幅広く活動している。
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