あなたがしてくれないから #06 〜あなたがしてくれないなら〜

結婚したら、他の異性と肉体関係を持ってはいけない。

結婚は、契約だ。男女の関係を、法的に拘束する力がある。
　

かつての私は、著名人の不倫報道を耳にするたびに、心のどこかで軽蔑していた。なんてくだらなくて、安易で、ただ欲に溺れただけの行為に及ぶんだろう…本気でそう思っていた。

だから、私は自分に自信があった。
不倫だけは、絶対にしないと。

今でも私は、本気でそう思っている。ただ、自信はなくなってしまった。

不倫をした人間がなんと言おうと、不倫したことは事実だ。どんな理由を並べたって、ただの言い訳にしかならない。
それでも、自分や家庭を守るために不倫が必要になった人もいるんじゃないかと、今はどうしても思ってしまう。

だって、もし結婚してから、夫に女性として扱われなくなったら？
一体、誰が妻を「女性」でいさせてくれるというの？
女性としてだけじゃない、１人の人間として尊重されなくなったら…？

夫とセックスレスになってから、私は「女」としての欠片を失ってしまった。どんなに頑張っても誰も埋めてくれない穴に、いつも隙間風が吹いている。

妻になったって、譲れない。私は、あくまで「女」でいたい。

体の作りが「女」だというだけで、「女」でいられる訳じゃない。

可愛い服や下着を買うこと。
心が躍るコスメを買うこと。
肌や髪を綺麗に整えること。

そうやって、自分を「女」として鼓舞できる、「女」としての自信を自分の力だけで手に入れられる、素敵な女性はいくらでもいる。
それでも、私の「女」としてのアイデンティティの一部は、私を女として扱ってくれる男性の存在にどこか依存してしまった。
　

子供にとっての親がそうであるように、生徒にとっての先生がそうであるように…。

「好きだよ」「ずっと一緒にいたい」「今日も幸せだった」
　

夫のため息で毛羽立った心を、彼が甘い言葉で潤してくれる。
今の私が「女」であるためには、自分を「女」にしてくれる彼が必要なんだ。

お金、容姿、心の充実、そしてセックスーー
　

必要なもの全てを１人に求めるのは、そもそもとても酷なことだと思う。私だって、全てを与えられる訳がない。
　

それなら、配偶者が埋められない部分を家庭の外に求めることは、本当に悪いことなんだろうか。

あなたがしてくれないなら、あなたにする気がないのなら、してくれる人にしてもらうしかないのだから。　

私にとって夫は、一度は人生を添い遂げようと思った人。
結婚生活が、ずっと不幸だった訳じゃない。
　

ときめきなんかなくたって、穏やかで安心できる日常は幸せだ。

それでも、今の夫との生活は、決して「穏やかで安心できる」とは言えない。顔色を伺い続けて、いつの間にか諦めて、言えなかった言葉は日々胸に溜まっていく。

「大切な人がつらいのは悲しいよ。だからちゃんと自分を大切にしてね。」
　

軽い風邪を引いたとき、彼から送られてきたメッセージにハッとした。
　

私はもう、私自身を、ないがしろにしたくない。私を大事にすることは、私のことを大切に想ってくれる人のためでもあるんだ。

今日も私は、お風呂上がりに、お気に入りの保湿ジェルを丁寧に塗る。ヘアオイルで髪をツヤツヤにして、唇は美容液で潤わせる。
　

埋められない体の穴を自分で慰めて、ゆっくりと深く眠る。

私は、私のために、そして私を大切に想ってくれる人のために、自分磨きを続けよう。そして、私自身の気持ちを、私が一番大事にしてあげよう。何よりも自分を、大切にしよう。

最後に自分を守ってくれるのは、きっと私しかいないのだから。

今の私には、４つの選択肢がある。

このまま、夫への秘密を続けるのか。
彼から離れ、夫の変化に期待するのか。
「女」として扱われることを、諦めるのか。
いっそ夫と、距離を置くのか。

禁忌に手を出してしまった私は、どのルートを選んでも、間違いなく誰かを深く傷つけることになる。少なからず自分自身が傷つくことは、大前提の上で。
　

それでもいつか、選ばなくちゃいけない。将来、幸せに生きていくために。

大好評放送中のドラマ『あなたがしてくれなくても』を通して、私は私のゴールが、ぼんやりと見えてきた気がする。

私たちの、ドラマのキャラクターたちのゴールは、一体どこにあるんだろう ――
自分事として、完結までこの作品から目が離せない。

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